「食事の時に体が傾いてきて困っているんですよ、どうにかなりませんか?」
これは、介護の現場に関わっているとよく相談されるお困りごとの1つです。
車椅子に座らせての食事介助時、高齢者の体が崩れるのには様々な理由があります。
今回は実際に私が関っている施設で、食事介助中に体が傾いてしまうご相談を受けた時のケースを例にしながら、その理由と対策を考えてみましょう。
目次
車椅子で高齢者が食事介助中に傾く理由
高齢者の方が車椅子座位で食事介助中に傾いてしまうのには4つの理由があります。
車椅子の座位で食事介助中に姿勢が傾く理由
- 要介護となる高齢者の多くは一度姿勢が崩れてしまうと自分では戻せない
- 車椅子の座面がたわんだまま食事介助をしている
- 足底(足裏)が床ついていない
- 腕がアームレストもしくはテーブルで支えられていない
これらをもう少し詳しく説明していきましょう。
要介護となる高齢者の多くは一度姿勢が崩れてしまうと自分で戻せない
要介護となる高齢者の多くは、筋力が低下していたり、姿勢変形があります。
体が前後、左右に傾くことは構わないのです。
健康な人だって椅子にずーっと同じ姿勢でいることなんてできないですよね?
問題は、筋力低下や姿勢変形のある高齢者は傾いたらそれを自分で元に戻せないということなのです。
体が傾くと安定性を保つために大きな力を必要とするため、食事の飲み込みにも悪影響を起こし、誤嚥のリスクも高まります。
なので、飲み込みに集中できるように環境を整えてあげる必要があります。
車椅子の座面がたわんでいる
車椅子の座面の「たわみ」は現場でよく見過ごされている部分です。
患者さんは同じ車椅子を長く使うことが多いです。
高齢者の方が使っているうちに食べこぼしや尿漏れなどで車椅子が汚れてしまうのはよくあることですよね。
車椅子の掃除は介助者もこまめにしていると思いますが、座面のたわみの調整まで目がいっているケースは少ないのです。
これは実際に高齢者の方が食事介助中に傾いてしまうとご相談を受けたときに現場にあった車椅子です。
黄色の丸で囲んだ車椅子の座面がたわんでいるのがお分かりになるでしょうか?
先ほども説明したように、要介護となる高齢者の多くは筋力が低下しています。
なので、こんな座面に座らせられると不安定で傾いてしまうのです。
座面のたわみをなくすだけで解消することもありますので、ぜひ現場にある車椅子を見直してみてくださいね。
足底(足裏)が床ついていない
これも現場で多く見られることの1つです。
足底(足裏)が床に付かないとどうなるのでしょうか?
コチラの写真をご覧ください。
一般的な車椅子というのはフットレストという足を置くところが少し前に出ており、座面も後側より前側の方がほんの少し高くなって斜めになっています。(赤線の部分)
ここに座ると下のような座位姿勢になります。
フットレストに足を載せると、高齢者の多くは太ももの後ろの筋肉(ハムストリング)が短くなっているため、そのまま太ももは前へ引っ張られ、さらには骨盤も引っ張られて後ろに傾いてしまうのです。
その結果、背中も丸くなっていわゆる円背(猫背のような姿勢、亀背ともいう)にならざるをえなくなります。
胸の前側も縮んでしまい、圧迫するので呼吸も浅くなります。
また、足底(足裏)が床に付いていないことでよりこの姿勢を増長し、飲み込むのはかなり難しくなります。
これがまた誤嚥のリスクを高めるわけです。
腕がアームレスト、もしくはテーブルで支えられていない
腕が支えられていないために体が傾いてしまうケースもよく見受けられます。
患者の上腕(二の腕)と車椅子のアームレスト(肘あて)やテーブルの高さがあっていないケースです。
コチラの写真をご覧ください。
赤線で印をつけているアームレスト(肘置き)から黄色の丸で示している両肘が落ちています。
腕と肘がアームレストに適正にサポートされていないので、体全体が左に傾いています。
胸の前側も縮んでいますし、体全体が左の方に回って捻じれています。
腕というのは体の中で見ると小さなパーツですが、結構な重さがあります。
要介護となる高齢者の多くは、筋力低下と姿勢変形がありますから、支える所がないと腕の重さで体が傾いてきます。
更には傾いた体を戻すことができないので、傾いたままの状態で座ることになります。
これもまた、誤嚥のリスクを高めることに繋がります。
車椅子で高齢者が食事介助中に傾かないための対策
では、車椅子で食事介助中に傾かないためにはどこを気をつければ良いでしょうか?
車椅子で食事介助中に傾かないための対策
- 車椅子の座面のたわみをなくす
- 足底(足の裏)を床につける
- 腕をアームレストかテーブルで支える
これらについて、もう少し詳しく見ていきましょう。
車椅子の座面のたわみをなくす
車椅子の座面のたわみがあると体が傾いてくる確率も高くなります。
「最近車椅子で食事介助する間、体が傾いていることが多くなってきたな?」
と気が付いたら、一度車椅子の座面のたわみをチェックしましょう!
車椅子の座面は、ナイロン製でできていたり、座面に布が張ってあるだけのものが多いです。
このような車椅子に20分~30分も座っていると、健康な人でもお尻が痛くなってしまったり疲れたりします。
介護度が高い人ほど座面は調整する必要があります。
車椅子のたわみをなくす方法
たわみをなくすのにタオルを使った方法があります。
ですが、タオルは時間が経つとへしゃげてサポート力が弱くなります。
また、高齢者お一人お一人にフィットするように調整するにはスキルと慣れが必要です。
現場で調整できる人がいらっしゃれば問題ありません。
でも、そうでない場合は時間が経つとまた傾いている、直したいんだけどどうしていいか分からない、再々は手間がかかる⋯⋯ということもあるのではないでしょうか?
そんな時は少し値が張りますが、適正な福祉用具を購入してしまった方がいい場合があります。
実際、私が関わっている施設でも車いす用の座面クッションを購入してもらったおかげで、クッションを車椅子にセットするだけということでスタッフの手間がなくなりました。
また、誰がやってもいつでも体が倒れない状態に保っていることができるようになりました。
要介護の高齢者で自分の姿勢を自力で直せない方の車椅子用座面クッションはどんなものがいいでしょうか?
オススメ
- 材質はジェル状のもの(特に坐骨辺り)
- 支持性があり、沈み込んで車椅子の座面に底付きしないもの
- 形態は立体的なもので、膝と膝がくっつかない、または開きすぎないようにサポートのあるもの(両股関節が内旋しすぎないもの、外旋しすぎないもの)
がオススメですので参考になさってください。
患者さんにあった車椅子を選定する
もう一つ大事なのは車椅子の選定です。
車椅子で食事介助中に体が傾いてしまう原因の一つとして、体よりも車椅子の座面の幅や奥行が大きいことが考えられます。
要介護である高齢者の方たちは小柄の方が多いです。
なので車椅子の中でお尻が泳いでしまい、ズレることで傾く原因となります。
その方の体型と車椅子のサイズが合っているかをチェックする必要があります。
施設で購入してもらうのは中々ハードルが高いですが、一度検討されることをオススメします。
足底(足の裏)を床につける
足底(足の裏)を床に付けようとする時に、足が床に降りない方がいらっしゃいます。
膝が屈曲(曲がって伸ばせない)してしまっているケースです。
そういう時は雑誌などを重ねて足の裏を支える面を高くしてあげるといいです。
腕をアームレストかテーブルで支える
車椅子によってはアームレストが調整できないために腕が支えられないこともあります。
その場合はブーメラン型のクッションなどで肩甲骨~上腕~肘~前腕までの腕全体をしっかり支えるようにすると上手くいきます。
クッションは柔らかすぎて沈み込まない支持性のあるものを選びます。(材質がビーズタイプはオススメできないです)
あまりに体の傾きがひどい人は、やはりその方にあったテーブルを選定してあげる必要があります。
その時に注意して欲しいのは、肩が引きあがらない位置に高さを調整してあげることです。
下の図を参考にして下さい。
元気な人なら「肘をついて食べるなんて行儀が悪い!」と思われるかもしれません。
しかし、筋力や体幹の弱い高齢者は支えるところがないと重たい腕に引っ張られてどんどん体が傾いてしまいます。
現場で車椅子での食事介助中によく体が傾く場合は、一度患者さんの腕がアームレストやテーブルにサポートされているかを確認してみてくださいね。
まとめ
車椅子での食事介助時に高齢者が傾いてしまう理由と対策についてご紹介してきました。
理由としては4つありました。
- 要介護となる高齢者の多くは一度姿勢が崩れてしまうと自分では戻せない
- 車椅子の座面がたわんでいる
- 足底(足裏)が床ついていない
- 腕がアームレストもしくはテーブルで支えられていない
対策としては、車椅子の座面のたわみをなくす、足底(足の裏)を床につける、腕をアームレストかテーブルで支える、ための詳しい方法をご紹介しました。
車椅子での食事介助中に体が傾いてくると、その度ごとに体を起こしたり、倒れてくる頭を持ち上げながら手で支えて介助⋯⋯なんてことも少なくないのではないでしょうか?
それって介助する側も大変ですが、患者さんが一番不快な思いをしながら食事をされていると思います。
施設などで過ごされている方たちの中には、日々の変化が少ない毎日の中で唯一楽しみなことが「食事の時間」とおっしゃる方が多いです。
食事の時間が楽しいものになるように今回の記事がお役に立てば幸いです。
高齢者の食事介助中の姿勢改善についてはこちらの記事を参考にしてください。
ご相談を受けたときの実際のケースを写真と共にわかりやすく解説しています。
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